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Lenzgesind

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2012年 12月 16日

冬の木立

寒くなってきた。
夫の植えたアオダモや紅葉の木立ちも裸になった。
家の者たちのために売れ残っていた紅玉でジャムをつくり、缶詰の小豆やら甘酒やら甘いものをしこたま買い込むと、やれやれ、ほっと一安心といった気持ちになる。
遠い遠い祖先は冬籠りに何をそなえていたのだろう。
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勘三郎氏が亡くなってから、どうにもやりきれない。
今年六月に父母が、もう御園座も長くないかもしれないのだから、いつ観られるのか分からないし行っておいでと半ば強制的に送り出してくれたのが市川海老蔵氏の新作『石川五右衛門』と『夏祭浪花鑑』だった。新作は立版古のような美しい舞台に目を奪われたけれど、情念に欠けいまひとつ物足らなかったが、海老蔵の美しい体躯もあいまって、夏祭の方は得も言われぬ素晴らしさだった。小さいころ好きだった月岡芳年の作風を思い出す。
そう父に告げると、ああ、あれはいいな、しかし勘三郎はすごいぞ、としたり顔で言う。
笹野氏が出演した新作歌舞伎のことであっただろう、元自由劇場の串田和美氏演出のその舞台の様子を聴くにつれ、いつかは勘三郎、の思いが私の中で強くなっていたのに。

ひとりの役者が育つまでには数十年の月日を必要とする。また彼のような存在の役者に出会うだろうか。
テレビ中継でも匂い立つかのようなその人間臭い魅力に圧倒されながら、彼が出演を熱望していた勘九郎襲名公演を観に行かなかったことでちょっと自分を責めた。
冬の木立_e0113871_1274320.jpg

役者も誰も彼も熟すには長い年月がいる。
冷たい風にあえぐ冬の木立をながめ、若い歌舞伎の後継者たちも、そしていたらぬ自らも
凍てついた季節を潜り抜けいつか熟成する日を夢見る。
できるかぎり劇場に足を運べたら幸せ、と思う。



このところの世の中の右方移動はどうしたことか。
以前その主たる人物が日本の伝統文化につき、パフォーマンス不足と言い放ったことを悲しくテレビで観た。
世の中が乱雑になってきている。
混乱したときこそ、先人の祈りや苦悩している人々の声に耳を傾けたい。本当の豊かさについてみかけの威勢のよさにだまされず心の中の声に問いたい。

by EKreidolf | 2012-12-16 01:43 | 雑記


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