2012年 02月 13日

『ふゆのはなし』の青

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東国のサファイアの得もいわれぬ色が
見渡すかぎりに澄みきった、
静謐な空気をいろどっていた。
それが、わが目と心を悲しませたあの
死せる空気から出てきたばかりの
わたしの目にはなつかしかった。

愛をつかさどる美しいあの星に
東の空はほほえみ、それにかしずく魚座は、光をうしなってみえた。
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凍てついた空気、水仙の花が咲き誇り
蠟梅の香りが立ちこめる季節になるとまた、須賀敦子さんの本を開きます。
この一節は須賀さんの著書、『本に読まれて』から。
あのダンテ・アリギエーリの『神曲』について書かれた部分より抜粋させていただきました。
『神曲』の原本はは古いトスカーナ語で記されていたそうなので、
訳は須賀さんご自身なのでしょうか。

どういうわけか、この一節に、エルンスト・クライドルフが描いた『ふゆのはなし』の美しい青が重なりました。

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雪の中で遊ぶ白雪姫と小人。
そう、あのグリムの白雪姫の続編ともとれる物語。

エルンスト・クライドルフがこの本を世に出したのは1924年。
このとき彼は60歳を超えていました。
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7年に一度、白雪姫は森の中にすむ7人の小人たちのもとに帰ってきます。
きらきらとまたたく小さな星々とともに。
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老境に達したクライドルフがなお、描きたかったものとは。



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小人たちと楽しいひとときをすごした白雪姫は、無常にも時が来ると
自分の場所へもどらねばならないと告げ、何処へと美しい雲とともにのぼっていってしまいます。
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嘆き悲しむ小人たち。
楽しく賑やかに過ごした時間はあっという間に過ぎ去り、
また小人たちは7年後の再会を心待ちにします。
白雪姫はどこへいってしまったのだろう、とつぶやきながら。

白雪姫とはだれなのでしょう。
王子の待つお城へ帰る、よく知られた白雪姫ではないよう。

この絵本の白雪姫は彼の若くして亡くなった姉、ヘルミネを象徴した存在だという説もあります。
ダンテ・アリギエーリは自らの生涯の心の恋人、ベアトリーチェを
天での絶対的な永遠の美の象徴として描きました。
対してエルンスト・クライドルフは、
彼の思い人とのつかの間のかなわぬ逢瀬を白雪姫という物語の続編として描きだし、
純粋かつプリミティヴで悲しみに包まれた願いを具象化しているような・・・。
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『ふゆのはなし』の見返し部分。

静かに年老いてゆくクライドルフは冬の夜空をながめながら、
誰を思っていたのでしょう。
まばゆい輝きを放つ夜空の金星をながめ、このおはなしを思いついたのでしょうか。
今はもうそばにいない誰かの存在を偲ぶときの、冴え冴えと明けてゆく東の空の青さを、
この絵本をひらくとき思い出します。
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by EKreidolf | 2012-02-13 11:46 | エルンスト・クライドルフ


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